くも膜下出血ークリッピング術 その2 皮膚切開

次に皮膚の切開についてです。
これは生え際より上の、髪の毛の中で行うことが普通なので、手術後はあまりめだちません。
以前は眉毛のそばに小さな皮膚切開をおいてカギ孔手術をしたこともありますが、最近は成績を重視してスタンダードな皮膚切開で手術しています。

お話ししたいのは髪の毛のことです。
私が研修医の頃は、「髪の毛は汚い!」ということで、髪の毛をそるのが一般的でした。
ちょっとの手術でも全剃毛、つまり頭全体をつるつるにしていました。
出家でもあるまいし。

さらには治療前に頭を出来るだけ消毒でゴシゴシとこすれと教わりました。
ある会では、「だまされたと思って30分ブラッシングしてみてください、感染しません」と偉い先生が言っておられました。

しかし医学は進歩し、「剃毛や過度のブラッシングこそが悪い。皮膚についた傷に菌が繁殖し、それがもとで手術時に感染が起こる」と言われるようになってきました。これは頭だけでなく全身にあてはまります。
実は私は研修医の頃はこの「全剃毛」を得意としており、「お前は医者がだめでも床屋になれるぞ」と上の先生に言われていた程です。「さかぞり」名人だったのです。
しかしその私が現在は無剃毛、つまり髪の毛を全く剃らずに手術をしています。
髪の毛は消毒さえしてあれば大丈夫なのです。
髪の毛をきれいに分けて、そこから皮膚切開をする。
手術が終わって髪の毛を下ろすと、長い髪の女の人などは圧巻です。
全く手術の跡が見えないのです。ちょっと感動です。
女の人にとって「髪は命」だそうですから…
おっと、差別はいけない、男性も無剃毛で手術していますよ。
今日も動脈瘤のクリッピング術をしましたが、髪の毛の少ない方でしたので「無剃毛」で美容的に治療しました。
手術も2時間で済んで、患者さんは元気です。
良かった良かった。

しかし、私が磨きに磨いた「さかぞり」技術は、今やお蔵入りとなってしまいました。

(っていうか、そんなたいそうなもんでもないか…)