その4での練習方法について書くのを忘れていました。
その練習法とは!
顕微鏡下で練習することです。
なあんだーという声が聞こえてきそうですが、人間での練習ではありません。
ラットなどを用いた練習です。
私の経験ではラットの大動脈と大静脈を剥離(はくり)するのが最も良い練習法です。
バイパスの練習を始めた頃「ラットがかわいそう」と私は思いました。しかし「じゃあ先生は人間で練習するの?」という当時の看護婦さんの言葉が決定的に私をこの練習に駆り立てたのでした。
とは言っても動物愛護的には問題があると思いますので、将来的にはコンピューターシミュレーションが最もいいでしょう。
さて、私はチューリヒ大学にいたとき、毎週バイパスの練習を行っていました。
初日はチューブをつなぐ練習から始まり、徐々にラットの血管をつなぐ練習に入るのです。
確立したトレーニングシステムがチューリヒ大学にはあります。
有名なヤシャギル(Yasargil)教授がこのシステムを作られたと聞いています。
そこにはフリックさんという、元看護士の指導者がいます。
フリックさんは「ちょーきびしい」のですが、ラットの血管吻合の腕は「超一流」で、練習に関していろんなことを教えてもらえます。
私はチューリヒ留学前に国立循環器病センターですでにラットでの血管吻合の練習を終えて実際の手術もしていましたが、フリックさんの指導には「目からうろこが落ちる」思いを何度もしました。
詳細は省きますが、ピンセットの持ち方から、針を通す位置、間隔、結び方、閉め具合、糸を切る位置まで、一本の縫合にここまで!と思うほどこだわっていて、本当に目の覚めるような思いでした。
頚動脈に静脈をつなぐことが出来るようになると徐々にフリックさんが手を加えて難しくしていきます。
そしてそれに合格し始めると、空いた時間で大動脈の剥離を許されるようになるのです。
これもこだわりはじめるとどれだけ時間があっても足りないぐらい奥が深いのですが、不思議なことに練習を重ねるに従って時間内に剥離できる範囲が広がって行きます。
この剥離操作はシルビウス裂をあけるのにそっくりです。
ぜひこれから手術をトレーニングする先生達にやってほしい練習法です。
そして次に大事なのは実際に剥離の上手な先生の手術を見ることです。
ぼんやりと見るだけでは習得できませんが、自分が実際に手術をするようになると、参考となる重要ポイントが見えてきます。
私は国循の橋本先生のビデオを見ながら、大学に戻ってからは先輩の郭先生、岩間先生(現当科教授)の手術をみて参考にしました。
最近では旭川赤十字病院の上山先生の手技を見に行って学びました。
うまい人のやり方にはそれぞれ理論やパターンがあるものです。これを頭に叩き込んで、「細い血管も全て残すぞ!」と気合いを入れて手術していれば、徐々に綺麗な手術が出来るようになります。
実践が最も大切ですが、そこに至るまでの練習法、練習時間も大事です。
この辺りはちょっとスポーツに似ています。
いい指導者の元でいい練習法でたくさん練習をする。
これがコツだと思います。
入門者達よ、がんばれー!