世界の脳外科医が注目する「最新機器」 その1:脳外科手術ロボット

最近、医療のニュースで「ロボット手術」という言葉をよく耳にしませんか?「ついに脳の手術も機械がやるの?」と驚かれるかもしれませんが、実は脳外科の手術の一部にはすでに導入されています。また、脳血管内治療の世界では、まさに今、歴史的な転換点を迎えています。私の外来でも、他疾患でダヴィンチなどのロボットを使った手術を受けた患者さんから「先生、脳もロボットでオペできるんですか?」と聞かれることが増えてきました。
そこで今回は、現在の最新情報をもとに、脳外科手術支援ロボットの現状について、分かりやすく解説します。

まずお伝えしたいのは、これらは「ロボットが勝手に手術をする」ものではない、ということです。言ってみれば「遠隔操作システム」のようなものです。医師は手術室の少し離れた場所にある「操縦席(コンソール)」に座り、ジョイスティックや画面を使ってカテーテルを動かします。例えるならドローンをリモコンで操作するようなイメージですね。


https://www.siemens-healthineers.com/jp/press-room/press-releases/pr-20211102-corpath-grxより引用

ではなぜロボットが必要なのか? それは、脳血管内治療医が不在の地域でも治療が受けられるようにしたり、医師が浴びる放射線(被曝)を減らすため、そして外科手術の場合には人間の手ではできような細かな操作ができるためです。

どのくらい進んでいるのか?
ロボット手術に興味を持たれた患者さんから「どこの病院で受けられるのですか?」と聞かれることがあります。実はロボット支援での脳血管内治療は、私の友人、Dr. Vitor Pereira(カナダ、トロント)が世界で初めて成功させ(引用論文1)、その後、6例のフォローアップの結果も報告しています(引用論文2)。機器はどんどん改良されていますが、世界的にもまだ研究・検証段階と言えます。実際にロボットで脳の治療を受けた患者さんはまだごく少数なのです。
しかし、2025年後半から動きが加速しています。特に「XCath」がパナマで行った、専用ロボットによる複雑な脳動脈瘤治療の成功は、歴史的な一歩となりました。医師が指先で感じていた「血管の感触」をロボットが再現し、より安全・確実にデバイスを送り込めることが証明されたのです。

日本にやってくるのはいつ?
日本への本格導入はまだ先ですが、ひょっとすると2027年から2028年頃には実現するかもしれません。というのも、日本は脳血管内治療件数が世界トップクラスであり、この技術が適応可能な患者さんが多い「治療大国」なのです。また、医師の働き方改革や、地方の専門医不足を解消するための「遠隔治療」への期待も高まっています。現在、メーカー各社は日本での認可(PMDA申請)に向けて準備を進めています。アメリカやヨーロッパで正式に承認されれば、そこから1〜2年で日本の大学病院などにも導入される可能性があります。

ロボットは少なくとも現時点では医師に代わるものではなく、私たち医師の手術を、より安全・確実にするための道具です。ですので「ロボット手術だから安心」ということではありません。「熟練した医師がロボットを使いこなすから、これまで以上に安全で確実な治療ができる」というニュアンスになります。
いずれにしろ、そんな未来が、すぐそこまで来ていることを皆さんに知っていただければ嬉しいです。

引用文献
1. Pereira VM, et al., J Neurointerv Surg. 2020;12(4):338–340. First-in-human, robotic-assisted neuroendovascular intervention
2. Cancelliere NM, et al. J Neurointerv Surg. 2021;14(12):1229–1233. Robotic-assisted intracranial aneurysm treatment: 1 year follow-up imaging and clinical outcomes