さて今回は脳血管撮影です。病院内では血管撮影のことを「アンギオ」といいます。これはドイツ語の「アンギオグラフィー」を略したものです。英語ではangiographyですので「アンジオ」と発音する先生もおられます。
脳血管のアンギオは、足の付け根の大腿動脈、肘の内側にある上腕動脈、または手首の撓骨(とうこつ)動脈からカテーテルと言われる管を入れて行います。心臓や他の血管領域でも良く行われているので、「カテーテル検査」と言えば、ご存知の方が多いかもしれません。カテーテルを目的の血管、脳の場合には頚動脈や椎骨動脈と言われる血管まで入れて、そこから造影剤(CTAで使うのと同じもの)を注入してレントゲン撮影を行う検査法です。
実は脳血管撮影は歴史が古く、CTやMRIより以前から行われています。その当時は頚動脈を首で直接刺して造影剤を注入して行うという、かなり怖い検査でした。しかし現在では上記のように足や手の血管からカテーテルを入れて行う方法に変わってきました。このため患者さんの負担はずいぶん少なくなりましたし、安全になりました。脳血管撮影では一般に1000例に数例の割合で合併症がおきるとされています。特に脳梗塞を起こすことが多いと言われており、動脈硬化の強い方、ご高齢の方に多い印象があります。個人的にはこれまでおそらく数千例のアンギオを行ってきましたが、重度の合併症はありません。しかしアンギオの合併症というのはやはり存在しており、明らかに術者の技量に依存します。慣れない術者に検査の合併症が多いわけです。
脳のアンギオは、以上のようにリスクを伴う検査法ですが、現在もこの方法が最も確実で最終診断法とされています。最近は3D-DSAという3次元撮影ができるようになり、コンピューター画面上で自由に回転させながら目的の血管や病変を詳細に観察することが可能です。もし脳血管撮影を受けるのなら、この3次元撮影のできる機械で受けることをお勧めします。同じドクターが行っても診断の精度が変わってきますから。ただし術者の技量も大事です。脳血管撮影は多くの件数をこなすことで上達します。勇気を持って担当の先生に、これまでどのぐらいの検査を行ってきたが尋ねてみましょう。
さて脳血管内手術を行う場合には、この「アンギオ」は極めて重要な検査法です。なぜなら、検査に使う管をかえることで治療ができるようになるわけですから。ある意味、脳血管内手術の最初の段階のシミュレーション的な要素があります。つまり血管撮影がすごく難しいケースは脳血管内治療も難しいと考えて差し支えありません。
以上のように、脳の場合、「脳血管撮影」「アンギオ」「カテーテル検査」はどれも同じ意味です。
これまで3回にわたって脳の血管の検査法について説明してきました。MRA, CTA, 脳血管撮影。この順に体に与える影響は増えますが、診断の確実性も上がることになります。
みなさん、お分りいただけましたか?
さて次から治療法の紹介をしますね!