【第1回】「横になると楽になる頭痛」の正体とは?脳脊髄液漏出症の基本と3つのタイプ

皆さんの周りにこんな頭痛を訴える方はいませんか?

「朝は調子が良いのに、午後になると頭が重くて立っていられない」「横になると嘘のように症状が軽くなる」――。私の外来を訪れる患者さんからも、このような声を聞くことがあります。

一般的な「片頭痛」や「緊張型頭痛」とは少し様子が違う、この不思議な頭痛。座ったり立つと頭痛が悪化して、横になると楽になることから、

「仕事をサボる口実にしているのではないか?」

「やる気がないだけだ!」

などという心無い言葉を浴びることもあると聞きます。

交通事故の後や、スポーツ、ダンス、ヨガをするようなアクティブな人にもこういった症状が出ることがあります。一体、その原因はなんなのでしょうか?

このような頭痛。実は、脳を支える「お水」が漏れ出しているサインかもしれません。今回は、近年注目されているこの病気、医学的に「脳脊髄液漏出症(のうせきずいえきろうしゅつしょう)」と呼ばれる疾患の正体について、専門的な視点から優しく解説します。

この病気で最も大切なことは、「脳のお水が盛れることで、脳が本来あるべき位置から少し下がってしまっている」という状態を理解することです。 脳は本来、脳脊髄液という透明な液体の中に浮いて守られています。しかし、その液体がどこからか漏れてしまうと、浮力が失われ、脳が沈んでしまいます。これが原因で様々な症状が出るのです。まずは、この「漏れる原因」にはいくつかの種類があることを知る一歩から始めましょう。

【 1:脳を包む「水風船」の仕組みと3つのタイプ】

私たちの脳と脊髄は、「硬膜」という丈夫な袋に包まれ、その中は「脳脊髄液(髄液)」で満たされています。例えるなら、「水の入ったビニール袋の中に、豆腐がプカプカと浮いている状態」をイメージしてください。袋に穴が開いて水が減ると、中の豆腐は底に沈み、重みで形が変形してしまいますよね。これが脳で起きるのが「脳脊髄液漏出症」です。

近年の研究では、この「漏れ方」によって、大きく3つのタイプに分けられることが分かってきました

タイプ1(硬膜裂傷型): 袋そのものが物理的に破れるタイプです。交通事故や転倒などの衝撃、あるいは背骨のトゲ(骨棘)が袋を突き破ることで起こります。
タイプ2(髄膜憩室型): 神経の根元にある袋が「こぶ(憩室)」のように膨らみ、その薄くなった壁から水が染み出してくるタイプです。
タイプ3(CSF-venous fistula:髄液静脈瘻): 最近見つかり、注目されているタイプです。本来つながっていないはずの「髄液の空間」と「血管(静脈)」が直接つながってしまい、髄液が血管内へ吸い込まれるように流れ出るタイプです。

【 解説2:受診のタイミングと、自己判断のヒント】

この病気の最大の特徴は、「起立性頭痛(きりつせいずつう)」です。 体を起こして数分から数十分以内に頭痛(多くは後頭部や首の痛み)が強くなり、横になると劇的に楽になる場合は、この病気を強く疑います。

他にも、以下のような症状がセットで現れることがあります。

  • キーンという耳鳴りや、耳が詰まった感じ(耳閉感)
  • ふわふわするめまい
  • 首や肩の強いこり、痛み
  • なんとなく頭がぼーっとする(集中力の低下)

もし「天気が悪い日に症状が強くなる」「水分を多めに摂ると少し楽になる」といった経験があれば、それは体が必死に髄液のバランスを保とうとしているサインかもしれません。「疲れのせい」と我慢せず、この病気の診療経験のある専門医へ相談するタイミングと考えてください。

こんな症状がある場合には、まずどうすればいいか?

専門医の中にもこの病気の存在を疑っている方や診療経験のない方もいます。ですので、「もしかして?」と思われた方は、まず次の3つを試して、この病気の診療経験のある医師に受診してください。

  1. 「頭痛日記」をつけてみる: 「何時に痛くなったか」「その時、立っていたか横になっていたか」をメモしてください。診断の大きな手がかりになります。
  2. 水分を意識して摂取する: 脱水を防ぐことで、髄液の産生をわずかに助けることができます。
  3. 無理に動かず、横になる時間を増やす: この病気において「安静」は立派な初期治療の一つです。体が発する「休みたい」という声に従ってください。

【まとめ】

脳脊髄液漏出症は、かつては「原因不明の体調不良」として片付けられてしまうことも少なくありませんでした。しかし現在は、適切な検査で診断可能で、治せる病気になっています。 次回は、これらの漏れをどうやって見つけるのか、最新の「診断法」について詳しく解説します。