もし異常を感じたら…救急車を呼ぶ「勇気」の基準

私の外来には、脳動脈瘤がある方や、脳の血管が細くなっている(狭窄がある)方が多く通院されています。そこでよく話題になるのが、「どんな症状が出たら救急車を呼べばいいですか?」ということです。

これについては、脳動脈瘤の場合には破裂による『激しい頭痛』、脳血管狭窄については、部位によって違いますが、『麻痺や言語障害など』が主なサインになります。ただ、そういった症状が夜中に出た場合には、「近所に迷惑がかかるのでは?」と考えてためらってしまう方がいます。また、症状が軽かったり、一旦症状が治まってしまったりした場合にも、救急車は呼びにくいと思います。しかし、その救急隊やご近所への遠慮が、取り返しのつかない事態を招くこともあるのです。
今日は、迷った時に救急車を呼ぶべき「基準」について、専門医の視点からお話します。

1. 脳動脈瘤の破裂は「突然の落雷のような頭痛」
脳動脈瘤という「血管のコブ」が破裂すると、くも膜下出血を起こします。この時の頭痛は、「バットで殴られたような」とか「人生で経験したことがないほど」と例えられますが、一番のキーワードは「突然」であることです。痛みの程度が軽い人もいるからです。いつから痛いかがはっきり言えるような急激な痛みを感じたら、夜中でも迷わず救急車を呼んでください。

2. 血管が細い方のサインは「麻痺や言語障害など」
血管が細くなっている(狭窄がある)方の場合は、片方の手足に力が入らない、ろれつが回らない、片方の目が見えにくいといった症状です。
ここで注意すべきなのは、症状が続く場合には誰もが危険だとわかるのですが、数分から数十分で消えてしまう場合でも注意が必要なことです。医学的には「一過性脳虚血発作(TIA)」という現象で、脳の血管が一旦詰まって症状が出て、再開通することで治るとされているのですが、この現象の後に本当の発作を起こすことがあるのです。つまり、「これから大きな脳梗塞が来るよ」という脳からの最終警告と考えるべきなのです。
ですので「治ったから明日まで様子を見よう」ではなく、すぐに病院を受診することが、将来の麻痺や寝たきりを防ぐ大きなチャンスになることを知っていただきたいです。

「迷い」を解決する合言葉「FAST」
それでもやはり、救急車を呼ぶのは勇気がいりますよね。そんな時は、世界共通のチェック法「FAST(ファースト)」を思い出してください。

・F(Face):顔。笑った時に片方の口角が下がっていませんか?
・A(Arm):腕。両腕を上げた時に、片方だけ力なく下がってきませんか?
・S(Speech):言葉。短い文章がいつも通り言えますか?
・T(Time):時間。どれか一つでも当てはまれば、すぐに119番です。

救急隊の方はプロですから、以上のような症状が出ていれば、たとえ結果的に大きな異常がなかったとしても、それを「迷惑」だなんて思うことはありません。遠慮なくコールしていいと思います。

専門医として伝えたいこと
私たちは、日々脳卒中の治療に取り組んでいます。しかし、どんなに優れた技術があっても、患者さんが病院に来るのが遅れると、回復しにくくなってしまいます。
脳は非常にデリケートな組織で、血液が止まった瞬間からダメージが始まります。ですから、早く病院に到着して適切な処置を始めれば、後遺症を減らすことができるのです。救急隊やご近所への配慮よりも、あなた自身の、そしてご家族の「その後の人生」を最優先してください。

アドバイス
今日、ぜひやってみていただきたいのは「救急相談窓口(7119)」を電話帳に登録しておくことです。もし救急車を呼ぶかどうか迷ったら、ここに電話してプロのアドバイスを仰いでください。この一つの登録が、いざという時のあなたの「勇気」を支える強力な味方になります。

引用文献
1. 日本脳卒中学会:脳卒中治療ガイドライン2021
2. American Heart Association / American Stroke Association:2019 Update to the 2018 Guidelines for the Early Management of Patients With Acute Ischemic Stroke